ゼロエネルギー住宅の基準は、外皮の断熱性能と一次エネルギー消費量の削減率で判断します。施主からZEH対応を求められても、地域区分ごとの数値を整理できていなければ、断熱と設備のどちらを先に詰めるか決められません。呼び名も『ZEH』からZEH Oriented、ZEH+へ分かれ、2027年4月にはGX ZEHも始まります。
当記事では、基準を判断する3つの指標、種類ごとの要件、令和8年度の補助金と申請時の注意点を整理し、組み込むべき申請の順序まで示します。
1.ゼロエネルギー住宅とは
ゼロエネルギー住宅は、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した住宅です。資源エネルギー庁は、外皮の断熱性能を高め、高効率な設備で省エネルギーを実現した上で再生可能エネルギー等を導入した住宅をZEHと定めています。断熱と高効率設備で消費量を減らし、つくった分を差し引いて正味ゼロへ近づけます。
出典:経済産業省資源エネルギー庁「ZEHの定義(改定版)<戸建住宅>」
また、令和4年の建築物省エネ法改正により、原則としてすべての新築住宅へ省エネ基準への適合が義務付けられました。資源エネルギー庁は2030年までのZEH基準の義務化も見据えています。
2.ゼロエネルギー住宅の基準を判断する指標
ゼロエネルギー住宅かどうかは、外皮の熱の逃げやすさや夏の日射の入りやすさ、エネルギー消費量を数値化し、基準値と照合して計算し、判断します。ここでは、基準を判断する指標を3つに分けて解説します。
2-1.外皮平均熱貫流率
外皮平均熱貫流率(UA値)は室内から逃げる熱量を外皮面積で割った値で、小さいほど断熱性能が高くなります。ZEHでは平成28年省エネルギー基準を満たした上で、地域区分ごとのUA値の基準が加わります。
| 地域区分 | 1・2地域 | 3地域 | 4地域 | 5〜7地域 | 8地域 |
|---|---|---|---|---|---|
| ZEHの基準値 | 0.40以下 | 0.50以下 | 0.60以下 | 0.60以下 | 基準なし |
| ZEH+の基準値 | 0.28以下 | 0.28以下 | 0.34以下 | 0.46以下 | 基準なし |
出典:経済産業省資源エネルギー庁「令和7年度以降におけるZEH+(『ZEH+』及びNearly ZEH+)の定義変更について」
同じ仕様でも地域区分が変われば基準値が異なるため、計画地の区分を確定させてから断熱材と開口部について検討しましょう。
2-2.平均日射熱取得率
平均日射熱取得率(ηAC値)は冷房期に室内へ入る日射熱の割合を示し、小さいほど日射の侵入を抑えられます。 ZEHの強化外皮基準でも、平成28年省エネルギー基準のηAC値が前提になります。断熱等性能等級6以上を求めるZEH+の基準値は次の値です。
| 地域区分 | 1〜4地域 | 5地域 | 6地域 | 7地域 | 8地域 |
|---|---|---|---|---|---|
| ηAC値の基準値 | 基準値なし | 3.0以下 | 2.8以下 | 2.7以下 | 5.1以下 |
出典:一般社団法人環境共創イニシアチブ「令和8年度 戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業 公募要領 個人申請向け」
1〜4地域に基準値はなく、温暖な地域ほど日射遮蔽の設計が問われます。庇の出寸法や窓ガラスの日射熱取得率が数値を左右します。
2-3.一次エネルギー消費量の削減率
一次エネルギー消費量の削減率は基準値に対する設計値の下げ幅を示し、再生可能エネルギーを除く値と含む値の2つで判定します。除く値は断熱と設備による省エネの成果、含む値は創エネを足した成果です。計算の対象は暖冷房、換気、給湯、照明に限られ、家電などは含めません。
出典:一般社団法人環境共創イニシアチブ「令和8年度 戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業 公募要領 個人申請向け」
含む値では売電分の創エネルギーも算入できるため、太陽光発電の容量が数値を左右します。ただし売電は余剰買取方式に限られ、全量買取方式は認められません。
3.ゼロエネルギー住宅のメリット
ゼロエネルギー住宅の価値は、補助金の受給にとどまりません。高断熱の外皮と高効率設備、太陽光発電の組み合わせは、住まい方そのものを変えます。ここでは、施主へ説明する際に押さえたいメリットを3つに分けて解説します。
3-1.光熱費を抑えやすい
購入する電力やガスの量が減るため、光熱費の負担を抑えやすくなります。『ZEH』は再生可能エネルギーを除いて20%以上、加えた場合は100%以上の削減を求めます。暖冷房や給湯の消費を削り、残りを自家発電で埋める構造です。
余剰電力は余剰買取方式で売電できるため、自家消費し切れない分が収入に回すことも可能です。
3-2.室内の温度差を抑えやすい
外皮平均熱貫流率の基準を満たす断熱性能により、室内外の熱の出入りが小さくなり、温度差を抑えやすくなります。4〜7地域のUA値0.60以下は、省エネ基準の適合ラインより踏み込んだ数値です。
温度差の抑制は断熱材の厚さだけで決まりません。熱橋部の断熱欠損や気流止めの処理が甘いと、計算上のUA値を満たしても局所的な冷えが残ります。基礎と外壁の取り合いやサッシ周りの処理を図面段階で指定します。
3-3.停電時にも電力を確保しやすい
太陽光発電システムに蓄電池を組み合わせると、停電時にも電力を確保しやすくなります。太陽光発電だけでは日照のある時間帯しか電気を使えませんが、蓄電池があれば夜間にも使えます。2027年4月に適用が想定されるGX ZEHでは、GX ZEH Orientedを除く区分で蓄電池の導入が必須です。
停電時に使える範囲は機器の自立運転機能や回路の設計で異なるため、非常時に動かす負荷を施主と決めておきます。
4.ゼロエネルギー住宅の種類ごとの基準
ゼロエネルギー住宅は一種類ではありません。同じ断熱仕様でも、太陽光発電の容量や計画地の制約で該当する区分が変わります。ここでは、種類ごとの基準を5つに分けて解説します。
| 種類 | 外皮の基準 | 再エネを除く削減率 | 再エネを含む削減率 |
|---|---|---|---|
| 『ZEH』 | 強化外皮基準 | 20%以上 | 100%以上 |
| Nearly ZEH | 強化外皮基準 | 20%以上 | 75%以上100%未満 |
| ZEH Oriented | 強化外皮基準 | 20%以上 | 要件なし |
| 『ZEH+』 | 断熱等性能等級6以上 | 30%以上 | 100%以上 |
| GX ZEH(2027年4月想定) | 断熱等性能等級6以上 | 35%以上 | 100%以上115%未満 |
4-1.『ZEH』
『ZEH』は、ZEH強化外皮基準を満たし、再生可能エネルギー等を含めて一次エネルギー消費量を100%以上削減した住宅です。再生可能エネルギーを除く削減率は20%以上で、再生可能エネルギーの導入も条件になります。
導入する容量は問われません。断熱と設備で20%以上を確保した上で、残る不足分を埋める太陽光発電容量を逆算する順序です。
出典:経済産業省資源エネルギー庁「令和7年度以降におけるZEH+(『ZEH+』及びNearly ZEH+)の定義変更について」
4-2.Nearly ZEH
Nearly ZEHは、再生可能エネルギー等を含む削減率が75%以上100%未満の住宅で、『ZEH』を見据えた先進住宅です。外皮基準と再生可能エネルギーを除く20%以上の削減という条件は『ZEH』と同じになります。
対象は太陽光発電の条件が不利な地域です。寒冷地の1地域と2地域、日射区分A1とA2の低日射地域、垂直積雪量100cm以上の多雪地域が該当します。該当地域で100%に届かない案件の選択肢になります。
4-3.ZEH Oriented
ZEH Orientedは、強化外皮基準と20%以上の削減だけを満たす区分で、再生可能エネルギーの未導入でも認められます。太陽光発電を載せられない敷地でも、断熱と設備の省エネで到達できる仕組みです。
北側斜線制限の対象となる用途地域等で敷地面積85m2未満の都市部狭小地等、または垂直積雪量100cm以上の多雪地域が対象で、平屋建ては都市部狭小地等から除かれます。狭小地案件では、まず敷地面積と用途地域から該当可否を確かめます。
4-4.ZEH+
ZEH+は令和7年度から、断熱等性能等級6以上を必須とし、再生可能エネルギーを除く削減率を30%以上へ引き上げました。現行のZEH+では、必須要件に加えて自家消費の拡大に資する措置を1項目以上求めます。
・再生可能エネルギーの自家消費の拡大措置
昼間の沸き上げに対応した高効率給湯器、5kWh以上の蓄電池、電気自動車の充電設備、太陽熱利用システムやPVTシステムから選びます。
・高度エネルギーマネジメント
HEMSで発電量を把握し、暖冷房設備や給湯設備等を制御できる状態が要件です。
削減率の引き上げにより、機器選定だけでは届かない案件が増えました。外皮性能の底上げとの併用が前提です。
4-5.GX ZEH
GX ZEHは2027年4月の適用が想定される新定義で、断熱等性能等級6と再生可能エネルギーを除く35%以上の削減を共通要件とします。区分は達成する水準に応じて4つに分かれます。
削減率はGX ZEH+が115%以上、GX ZEHが100%以上115%未満、Nearly GX ZEHが75%以上100%未満で、GX ZEH Orientedには要件がありません。戸建住宅では高度エネルギーマネジメントが必須となり、GX ZEH Orientedを除く区分では初期実効容量5kWh以上の蓄電池も必須です。現行のZEH定義は2028年3月で新規取得を停止する想定で、2027年度は新旧どちらの認証も取得できます。
5.ゼロエネルギー住宅で使える補助金
ゼロエネルギー住宅には国と自治体の補助制度があり、達成した水準に応じて補助額が変わります。制度ごとに執行団体と申請ルートが異なり、併用に制限がある点に注意が必要です。ここでは、令和8年度に使える補助金を3つに分けて解説します。
5-1.新築戸建住宅のZEH・ZEH+化等支援事業
環境省の補助事業で、令和8年度はZEHが1〜3地域で55万円、4〜8地域で45万円の定額補助が受け取れます。執行団体は一般社団法人環境共創イニシアチブで、ZEHポータルから電子申請します。
| 補助対象住宅の種別 | 1〜3地域 | 4地域 | 5〜8地域 |
|---|---|---|---|
| ZEH | 55万円 | 45万円 | 45万円 |
| ZEH+ | 90万円 | 90万円 | 80万円 |
出典:一般社団法人環境共創イニシアチブ「令和8年度 戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業 公募要領 個人申請向け」補助額はいずれも1戸あたり
Nearly ZEHとZEH OrientedはZEHと同額、Nearly ZEH+はZEH+と同額です。蓄電システムは初期実効容量1kWhあたり2万円で上限20万円、高度エネルギーマネジメントは定額2万円が加算されます。
5-2.みらいエコ住宅2026事業
国土交通省と環境省の合同事業で、GX志向型住宅は1〜4地域で125万円、5〜8地域で110万円が補助されます。長期優良住宅とZEH水準住宅も対象で、床面積50m2以上240m2以下が条件です。
| 補助対象住宅 | 1〜4地域 | 5〜8地域 |
|---|---|---|
| GX志向型住宅 | 125万円 | 110万円 |
| 長期優良住宅 | 80万円 | 75万円 |
| ZEH水準住宅 | 40万円 | 35万円 |
出典:みらいエコ住宅2026事業「事業概要」補助額はいずれも1戸あたり
GX志向型住宅の要件は、断熱等性能等級6以上、再生可能エネルギーを除く削減率35%以上と高度エネルギーマネジメントの導入です。長期優良住宅とZEH水準住宅は、賃貸住宅を除き子育て世帯または若者夫婦世帯に限られます。
5-3.自治体独自の補助制度
自治体には国とは別枠の助成があり、東京都の東京ゼロエミ住宅は戸建住宅で水準Aが240万円、水準Bが160万円、水準Cが40万円です。蓄電池への助成も別にあり、1kWhあたり10万円で1戸あたり120万円が上限になります。
確認しておきたいのは国の補助との併給可否です。東京ゼロエミ住宅は、みらいエコ住宅2026事業のうち子育て世帯または若者夫婦世帯を対象とする補助と併給できますが、GX志向型住宅への補助とZEH・ZEH+化等支援事業とは併給できません。
6.ゼロエネルギー住宅の補助金を申請する際の注意点
補助金は要件を満たした住宅を建てるだけでは受け取れません。事業者の登録状況と申請の順序が結果を左右します。ここでは、申請前に確認しておきたい注意点を3つに分けて解説します。
6-1.登録事業者が関与しているか確認する
ZEH・ZEH+化等支援事業では、SIIに登録されたZEHビルダーまたはZEHプランナーが建築、設計、販売のいずれかで関与する住宅が条件です。登録のない事業者が設計や施工を担う場合、性能が要件を満たしていても申請できません。
登録済みの事業者にも、ZEHビルダー・プランナー登録のフェーズ3での継続登録が求められます。みらいエコ住宅2026事業でも申請するのは事務局に登録された事業者で、交付申請までに事業登録が必要です。設計受託の段階で元請の登録状況を確認します。
6-2.公募期間と予算の上限を確認する
補助金は公募期間内の先着順で受け付けられ、申請金額の合計が予算に達した時点で受付が終わります。期間内でも枠が埋まれば申請できないため、期限だけを見た逆算では間に合いません。
ZEH・ZEH+化等支援事業では、予算に達した日は不備のない申請を対象に抽選が行われます。予算に達した日の17時より後はポータル申請ができなくなり、受付可能な残額はZEH Webで公表されます。
6-3.BELSの取得時期を工程に組み込む
ZEH・ZEH+化等支援事業では、交付決定番号を得た後にBELSの取得を含む補助事業へ着手します。交付決定前に取得すると事前着手とみなされるため、評価の申請時期を工程表へ落とし込む段取りが前提です。
申請単位はBELSの住戸評価に係る評価書1件につき1申請で、単年度事業の中間報告はBELSの取得日から3週間以内に提出します。
出典:一般社団法人環境共創イニシアチブ「令和8年度 戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業 公募要領 個人申請向け」
複数年度事業では、1年目の交付決定後にBELSを取得し、2年目の交付決定後に工事へ着手する流れです。BELS取得費用は設計費として補助対象経費に含まれ、1年目では定額5万円が補助されます。
まとめ
基準は外皮平均熱貫流率とηAC値で外皮性能を、削減率で省エネと創エネの成果を判定します。区分は『ZEH』からZEH Oriented、ZEH+へ分かれ、2027年4月には断熱等性能等級6と蓄電池を要件とするGX ZEHが始まります。令和8年度は登録事業者の確認、予算残額の把握、BELS取得時期の3点が要です。
省エネ計算と申請の段取りに手が回らない場合は、外部の専門家へ事前検討を任せられます。JNS建築事務所の「ワンデイ検討」なら、平面図をもとに断熱の厚さと種類、設備の仕様を簡易計算で確認できます。ZEHの断熱と設備の仕様や、基本設計段階での太陽光発電の必須容量まで相談できるため、ぜひご活用ください。


