それでね vol.6 辻千恵「悩みながら、進みながら、見つけたもの」

モデルたちをよく知るカメラマンが、彼女たちの心の内をのぞくインタビュー連載「それでね」。

第6回目は辻千恵。今やモデルだけでなく女優としても映画、ドラマ、CMなどで幅広く活躍中。そんな辻ちゃんは、もともと今のような仕事をすることは考えたこともなかったそう。上京を決めた理由や、今のお仕事にたどり着くまでの素直な気持ちを赤裸々に語ります。


最初に夢中になったのは書道だった

小学校低学年から書道を習い始めて、高校生まで続けてました。

中学生の頃には、硬筆の師範も取得しました。

高校も書道がやりたくて、書道が盛んな学校を選んだぐらいです。

部員も多くて、中学校までは勉強も良くできてたんだけど、高校に入ったらどんどん落ちこぼれみたいになっちゃって毎日怒られてました。

服装で注意されたり、授業中もずっと居眠りしちゃったり。

書道部の顧問に「そんな子は、部活に来ないで下さい!」って言われて良く謝りに職員室に行ってました。

「書道やらせて下さい!」って。謝りすぎて、何で謝ってるのか分からなくなっちゃうくらいでした(笑)。

大学で福岡に出て、このままずっと住むんだって思っていた

元々は、ずっと保育士になりたかったんです。

でも、入ろうとしてた大学のパンフレットに卒業生の就職先が書いてあって、空港の地上スタッフになってる方が居るって見かけて。

飛行機も好きだったから、「空港で働きたい!」って思って大学決めました。

それから、佐賀県の実家から福岡の大学に進学して一人暮らしが始まりました。

家賃を払うためにバイトしました。結婚式場の配膳係が1番続いたと思います。

蕎麦屋さん、塾の講師、いろいろやりました。

簿記検定やエクセル検定も必死に取りました。

就職するための勉強で、大きな夢も無くて、ただ就職したい、福岡に住むって漠然と思ってました。

 

merとの出会い

大学2年の時に通っていたヘアサロンの美容師さん(switchのnaoさん)に「メルのスナップ撮影あるから出てみない?」って言われてメイクをしてもらって出たのが最初です。

恰好はスウェットとデニムパンツ。

オシャレ自慢の場所なのに、今思うとかなり地味だったと思います(笑)。

それまでメイクもほとんどしなくて、服も古着屋さんとか行った事も無いぐらいオシャレに疎かったんです。

ただ連れて行かれた状態でした。メルも知らなかったんです。

それからたまにスナップ撮影に呼ばれるようにって、そしたら今度はmerのモデルオーディションに誘われたんです。

 

 

断ってたのに、強引に出る事になってて、「あれ! え?」って感じで撮影されて、投票されて、気が付いたらグランプリになってたんです。

 

今だから言えるけど、正直、全然興味がありませんでした。できればやりたく無いぐらい(笑)。

それから撮影で東京に飛行機で行く機会が増えていきました。

将来の夢、空港の地上スタッフを観察できる機会も同時に増えて、大変そうだし私には無理だな~って思い始めたのもこの頃でした。

モデルイヤイヤ期

佐賀から通いでのモデル活動が始まってしまいました。

でも、すぐ辞めようって思ってました。

大学の勉強もあるし、その頃になると就活も同時に動き出す頃だったので。

 

「試験があるんです!」って言っても、お構い無く撮影の時期が来る感じとか、人前に出たくないのに撮影するとか、当時は本当に嫌だったんです。

撮影後には反省シートっていうのがあって、編集の方と話し合いながら目標を決めたり反省点を見つけたり、インスタグラムの発信の仕方の戦略を立てたり、今まで全くやったことがないことの連続で、毎月の東京が苦痛でした。

なんでこんな事しなきゃならんのかと…。

就活からモデルへ

モデルの仕事にも少しずつ慣れてはきてましたが、就活も同時にやっていて、実は内定ももらえていました。

ある日、その内定先の人事の方とお話しする機会があったんです。

元々モデル活動をしてる事は伝えていました。

そのうえで、一人の女性として沢山の話をしてくれたんです。

就職の事、今、本当にやりたい事、恋愛など。本当に色々なことを。感動して泣いてしまいました。

その日の夜、東京でmerのイベントがある為夜の便で東京に行かなきゃいけなくて飛行機に乗った時に「就職はお断りさせて頂こう」って決心してました。

今しか出来ないmerを頑張ってみようと。

モデルから役者へ

上京して半年ぐらい経った時に、編集長の紹介で演技レッスンを受けたんです。

終わった時に、何も出来なかった悔しさや緊張、不甲斐ない自分への感情が溢れてしまい泣いてしまいました。

それが演技との出会い。

それから毎週演技レッスンに通い出しました。とても刺激になりました。

そんな中、色々なオーディションにを受けて、CMやMVのお仕事の依頼も来るようになってきました。

作品に携わり、完成させていく喜びも味わってしまいました。

日常では経験できない事を体現できるのも演技の魅力だと思いました。

写真とは違い、動画の仕事って台詞があったり動いたり感情の動きを表現したり、私がやる意味みたいな事を考えてやらないといけなくて、その、もがいてる感じが私には心地良いし、苦しいし…

それが自分らしい気がしたんです。

今までが甘かったって想いがあります。

何となくモデルを始めて、ありがたいことに優しく受け入れてもらえていて、でもそこから役者として生きていけるようになるには、普通の努力では達成できない。

私が演じる役は私にしか出来ないって事が大切だとは思うんですけど、簡単では無いので今もずっと試行錯誤の毎日です。

現在進行形の私

役者としての私はまだ始まったばかりなので、ハッキリとした目標がある訳ではありません。

こんな仕事をしてるのに、人に優しくしてもらってばかりで、自分は人に優しくできてないと思うんです。

私は人間として欠落してる部分を仕事で補ってる気がする。

先輩には「自分が何者か理解しないと駄目だよ」ってアドバイス受けたんですが、未だに自分を理解できてません。

やる気に満ち溢れてはいます。

でも時に、去年はモデルと役者の仕事の両立が難しいと考えてしまったり、「役者を辞めたら書道の先生も良いかな~」と思ってしまったり、もう一人の自分が俯瞰で見ていて、目標に向かって進んでいるはずの自分を邪魔をするんです。

だから、今は自分との戦いだと思っています。

これからもっと色々な世界を経験したい。

そしてこの先も、前向きにだけど、ずっとずっと悩み続けていくんだろうなと思います。

 

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写真・文/伊藤大作(The VOICE)

モデル/辻千恵